平成16年改正で年金制度が変わります
 今年は5年に一度行われる公的年金制度の改正の年にあたり、6月初旬に年金制度を改正する法律が公布されました。今後、改正の実施が予定されているあたらしい年金制度についてご紹介します。
【 給付と負担の見直し 】
●保険料水準固定方式の導入(平成16年10月から)
 今回の年金制度改正によって、給付と負担の見直しを図るための新たなしくみとして「保険料水準固定方式」が導入されます。保険料水準固定方式とは、あらかじめ最終的な保険料を定めて、その保険料負担の範囲内で給付を自動的に調整するしくみです。最終的な保険料に達するまでは、保険料は毎年段階的に引き上げられます。年金給付については、標準的な年金受給世帯※で新規裁定時に現役世代の平均的収入の50%以上を確保するものとしています。
※夫が平均的収入で40年間就業し、妻がすべての期間専業主婦の世帯
厚生年金保険料: 平成16年10月から毎年0.354%ずつ引き上げられ、平成29年9月からは18.30%(労使折半負担)に固定されます。
国民年金保険料: 平成17年4月から毎年280円※ずつ引き上げられ、平成29年4月からは16,900円※に固定されます。
※平成16年度価格。
・保険料水準固定方式の導入イメージ(厚生年金保険の場合)
保険料水準固定方式の導入イメージ(厚生年金保険の場合)
●マクロ経済スライドの導入(平成16年10月から)
 保険料引上げが行われる期間の年金額の改定については、従来の現役世代の賃金水準や物価水準に加えて社会全体の保険料負担能力を反映する「マクロ経済スライド」によって行われます。マクロ経済スライドの導入によって、これまでの改定方法よりも年金額の引上げは緩やかになります。
・マクロ経済スライドによる厚生年金の受給額(月額)
マクロ経済スライドの導入
●基礎年金の国庫負担の引上げ(平成16年度から)
 現在、基礎年金の財源はの3分の1が国の負担で賄われていますが、前回の年金制度改正でこれを2分の1に引き上げることが決定しました。今回の年金制度改正では、平成16年度よりスタートし平成21年度までに完了するという具体的なスケジュールが示されました。

【 高齢者と年金 】
●60歳代前半の在職老齢年金の見直し(平成17年4月から)
 現在は報酬や年金額にかかわらず、60歳代前半で在職する年金受給者の年金額は一律2割が支給停止されています。改正後はこの一律2割の支給停止が廃止されます。
●在職老齢年金の対象年齢の引上げ(平成19年4月から)
 現在、在職老齢年金は60歳から69歳までの在職者が対象とされています。改正後は70歳以上の在職者にも60歳代後半の在職老齢年金制度が適用されます。ただし、70歳以上の在職者は保険料負担はありません。
●65歳以降の老齢厚生年金の繰下げ支給制度(平成19年4月から)
 現在は老齢厚生年金を65歳以降に繰り下げて受けることはできません。改正後は老齢厚生年金の繰下げ受給が可能になります

【 女性と年金 】
●次世代育成支援の拡充(平成17年4月から)
 現在は子が1歳未満の期間に育児休業中の保険料免除が適用されていますが、改正後は子の年齢が3歳未満に引き上げられます。また、育児のために勤務時間の短縮等を選び、標準報酬月額が低下した場合は育児期間前の標準報酬月額が適用されます。
●離婚等をした場合の標準報酬の分割(平成19年4月から)
 離婚をした夫婦間の同意または裁判所の決定がある場合、2分の1を上限として婚姻期間中の厚生年金保険被保険者期間の標準報酬を分割できるようになります。
●第3号被保険者期間の標準報酬の分割(平成20年4月から)
 配偶者が納めた厚生年金保険料を被扶養配偶者と共同で負担したものとし、離婚等をした場合に、第3号被保険者期間の夫婦の標準報酬を2分の1に分割できるようになります。
●遺族年金制度の見直し(平成19年4月から)
 高齢期の遺族本人について、老齢厚生年金を全額支給した上で、現行水準との差額が遺族厚生年金として支給されます。また、子のいない30歳未満の妻の遺族厚生年金が5年有期の給付になり、中高齢寡婦加算(夫死亡時35歳以上の妻に40歳から支給)が夫死亡時40歳以上65歳未満の妻への支給になります。

【 国民年金関係 】
●30歳未満の納付特例制度(平成17年4月から)
 30歳未満の所得が一定額以下の人について、10年以内であれば国民年金保険料の納付を猶予されるしくみが設けられます。
●第3号被保険者の届出の特例(平成17年4月から)
 現在、第3号被保険者の未届期間のうち、遡って届出できるのは2年前までです。年金制度改正により、2年前より過去の未届期間も特例的に手続き届出期間とすることができます。
●国民年金保険料の多段階免除制度(平成18年7月から)
 現在認められている国民年金保険料の全額免除・半額免除に加え、4分の3、4分の1の保険料免除が認められます。

【 その他 】
●定額部分の算定上の被保険者期間の上限引上げ(平成17年4月から)
 現在は、定額部分の算定上の被保険者期間の上限は444月(37年)です。改正後はこの上限が段階的に480月(40年)に引き上げられます。
●障害年金の改善(平成18年4月から)
 現在は、「1人1年金」の考え方から障害基礎年金と老齢厚生年金または遺族厚生年金の併給は認められていません。改正後はこれらの併給ができるようになります。
●年金情報の定期的通知とポイント制(平成20年4月から)
 国民年金保険料の納付記録や年金見込額などの年金に関する個人情報が定期的に通知されます。また、保険料納付の実績を点数化し表示するポイント制が導入されます。

【 厚生年金基金制度の改正 】
●免除保険料率の凍結解除(平成17年4月から)
 前回の年金制度改正で厚生年金保険料の引上げが凍結されたことに伴い、厚生年金基金の免除保険料率についても凍結されていました。改正後は、厚生年金保険料の凍結解除に伴い、免除保険料率の凍結についても解除し、直近の平均寿命や厚生年金保険本体の予定利率に基づいて設定されます。
厚生年金基金の免除保険料率の範囲
現行:2.4〜3.0%
改正後:2.4〜5.0%
●解散時の特例措置(平成17年4月から)
 現在は、基金が解散する場合、最低責任準備金(厚生年金を代行するために必要な資産)に相当する額を一括して拠出することになっています。改正後は、一定の条件を満たしている基金は、最低責任準備金の積立不足を原則5年以内の分割納付をすることができます。また、解散時の納付額に関する特例も認められます。これらの特例は3年の時限措置とされています。
●企業年金間のポータビリティの確保(平成17年10月から)
 改正後は、厚生年金基金と確定給付企業年金の間で、加入者の年金原資の移換が可能になります。これらの企業年金間での移換が難しい場合は、企業年金連合会(現・厚生年金基金連合会)に年金原資を移換し、年金受給することができるようになります。また、厚生年金基金や確定給付企業年金から確定拠出年金へ加入者の年金原資が移換できるようになります。